仏陀の風景/文・三田誠広
ある時、仏陀はこのように語った。
他人を頼ったり、求めてはならない。子供や友人を欲しがるな。
他人と親しみ、他人を愛してしまうと、そこにこだわりが生じる。
求めて得られなければ、悲しみが生じる。
人はいつか、愛していた者の死に立ち会わなければならない。
愛は苦しみを生む。
初めから他人に頼り、他人を求める気持ちがなければ、
この苦しみは生じない。
家族や友人の中にあれば、喜びもあるが、
より大きな苦しみがやがて訪れる。
あらゆる人とのつながりを断って、犀(さい)の角のごとく
ただ独り歩め。
しかしまた、人の中にあっても、自分がただ独りであるという
勝れた境地に達したものは、穏やかに、言葉やさしく、
人々の中を歩むがよい。
生きて在るもののすべてが幸福になるように、
大いなる慈しみの心をもって人々と接し、
他人の悲しみをわがことのように悲しむ気持ちをもて。
最も忌むべきものは、自分へのこだわりである。
自分が尊く美しいものだと思っているものは、わが身体を見るが良い。
肉体とは、汚物をつめこんだ袋のようなものだ。
九穴から汚物を垂れ流す醜い生き物であるわれわれが、
自己を尊ぶとは、何という愚かなことであろうか。