the other side 6

The other side of urban city life
リリース記念対談
HAPPYSAD ×JEFFREY YAMADA
第六回「どっちもほんと」

山田:ニューヨークでドクター・ジョンのライブを観た時に、
夜の一時くらいにすごい盛り上がって、
ドクターの演奏が止まらなくなっちゃったという事があったんだけど。そうしたらさ、お店の人が店の扉をわざと開くわけ。

草野:へええ。

山田:店の外には、お金持ってないんだけど、ドクターのライブを
聴きたいっていう連中がウロウロしてるんだよ。そこでお店の人がそっと戸を開けるんだよ。

草野:ああ・・・。外の人達にも聴かせてあげるんですね、彼の演奏を。
いい話だなあ!

山田:そう!
九時から始まって、夜の一時半くらいまで演奏して、最後はみんな音楽にあわせて道路で踊ってるんだよ。ビール飲みながら(笑)

草野:日本で同じことやったら、「もう時間だ」なんて言って、みんなを帰しちゃうところを。

山田:ドクター・ジョンも素晴らしかったけど。そういうのってさ、
やっぱそうだよなあいいなあって思うよ。

草野:そういうことって失くしがちですよね。忙しかったりすると。

山田:音楽って本当は自由なのに、制限がかかってきちゃうというか。

草野:自分で本当は自由にできることを自分で制限してしまっている、
そのために窮屈になってしまっている部分てあるじゃないですか?
それは音楽というだけではなくて、普段の日常生活であったり。

山田:人間て勝手なところがあってさ。
自由になったら「自由になりたくない」みたいなとこあるじゃない。

草野:隣の家の芝生は青く見える、というやつですね。
ないものねだりになっちゃう。

山田:自由にされちゃうと、逆に落ち着かないというか。
自由でなくなると、今度は「自由になりたい」みたいな。

草野:HAPPYSADの「Let’ get together」という曲。
”誰も束縛され過ぎるのも、自由過ぎるのも耐え切れないから、
だから都合のいい偶然を探し当てる意味のない時間潰しを

捨ててしまおう”という言葉が出てきますが。

山田:そうそう。

草野:何にしても、個人的には ポジティブに考えるのがいいかなと思いますね。心も身体も喜ぶし。

山田:それはもう、三十歳こえたからこそっていうさ(笑)

草野:(笑)

山田:以前、すっごいくだらない映画を観たんだけど。ある日、普通に暮らしている数名の人に手紙が来るその手紙が来ると半年とか一年後くらいに
死ななければならない、って内容で。
なんでそうするかっていうと、世の中のバランスをとるためにそうしなきゃならない。
法律側でそう決められているというストーリー。

草野:バトルロワイヤルみたいですね。

山田:ただし、社会のために死ななければならないので、その間は何でも好きなことをしても許される。

草野:生々しい話になりそうですね。

山田:その手紙が届いた人は、最初の頃は「まあ、いいか」なんて感じで
その状況に甘んじるわけ。だけど、死ななければならない時期に近づくとだんだん深刻な話になっていく。

草野:極限ですね。

山田:この世界に置き換えると、「価値」だとか「音楽」とか ってすごくいいものだけど。それって我々が当たり前に思っている前提の上に、 極めて不安定に存在しているわけ。

草野:僕らの存在もそうですよね。それでずっと不安定のままでいられないから、安定感を求めるというか。

山田:自分のことを考えても、 すごい偶然の不安定の上で生きてるんだなあ、って思うんだよね。

草野:極端な例ですけど、もし今一兆円持っていたとして、明日死なければならないんだったら、その一兆円は意味ないですよね。

山田:でもさ、あと五十年経ったらみんな死んでる可能性高いよね。
それに関しては誰もなんとも思わないわけだ。

草野:最終的には僕ら全員、土の下に眠りますからね。

山田:それは五十年だったらいいけど、あと五年だったらパニックが
起きちゃう。その差ってなんなんだろうって思うよね。

草野:わかりませんね。
目の前に来ないとわからないもんなんでしょう。

山田:ものの価値って大事だと思うんだよね。
それが出てきた瞬間に、それまで自分が築いてきた価値観とまったく
別のものが出てきちゃう。
あとさ、「宇宙人が来ると隠す」っていう政府の陰謀説があるじゃない?

草野:NASAのなんとか説ですね(笑)

山田:そう。あれも同じでさ。「宇宙人」っていうまったく別な価値観が現れるわけじゃない?
いままで我々の世界では「力が強い」とか「お金持ってる」とかが
力だと一般的に認識されてる。相手を手で傷つける、手で駄目なら武器で傷つける、力をもってして争う。だけど、そんな武器なんかでは歯が立たないものを持っている存在がいる、ってわかった瞬間さ・・・。

草野:今の価値観はなくなりますよね。

山田:そう。もし宇宙人が来たとしたら、翌日に株が大暴落して経済が機能しなくなるなんて話があるけどさ。今の世界の音楽が「お金」っていうシステムの上で存在している。 これも一つの価値だよね。でも、その価値が無くなったらどうなる。やっぱ価値って大事だなと。

草野:うーん。自分に余命があるっていう前提で、 その価値は成立しているっていうことですよね。明日死ぬ時、これまでの人生いいことも悪いこともあったとして、 「後悔するかしないか」は大きいような気がしますね。
後悔する量は少ないほうがいい。充実した一生だったと思えるかですね。

山田:「もういいや」って思って最期をむかえるのが幸せなのか、
「いや、あれがやりたかった」と思って最期をむかえるのが、
どちらが幸せなんだろうかねえ?

草野:個人的には「もういいや」って思えるくらいが幸せな気がしますけどねえ。何かが残っていると、もうダメでしょうね。そうはいっても何かしらは残るんでしょうけど。最期は何しますかね。イタリアに行きますかね。

山田:イタリアのどういうところがいいの?

草野:いや、街並み自体が綺麗だし、気候もいいし。
そこにいるだけで落ち着きますね。食べ物もおいしいし、街の雰囲気も明るくていいんですよね。あと、言葉がわからないっていいですよね。
自分の生活圏から離れているから、何も考えなくていいっていうのもありますけど(笑)

山田:言葉がわからないっていうのは不思議な世界だよなあ。

草野:英語しゃべれたら、もっと世界が広がるのになあって思いますよ。
むこうの人は人種が入り混じってるから、数ヶ国語話せるのが
普通だったりするじゃないですか。そうしたら色んな人の話を聞けるのになあ。

山田:でもどうなんだろうなあ。僕はアメリカの音楽が好きで、
アメリカに行くじゃん?
向こうのミュージシャンと演奏したり、それって喜びなわけよ。
でもね、行けば行くほど違うなって思うわけ。

草野:ほう。

山田:彼等とコミュニケーションも沢山とっていいなあと思うんだけど、
一緒にいればいるほど違うなあって思う。

草野:差異を感じるんですか?

山田:そうそう。
何が違うかっていうと、やっぱ食い物が違う(笑)

草野:(笑)

山田:食い物が違うってことはDNAとかも違うってことなんだろうけどさ。

草野:生活とか身体とかの差以外にも、
「日本人が思い込んでる外国」と「実際、外国の人が生活している外国」
ってズレがありそうですよね。
日本に来ているイギリス人とバーとかで話すと、 僕は大体ビートルズの話を聞くんですけど。
彼等から言わせると「日本人はみんなビートルズっていうけど、イギリス人からすれば空気みたいなもんだよ」といいますね。でも日本人の僕らからすると、ビートルズは毎日の身近な生活に存在しているわけではないから、どんどん神棚に上がっていってしまうわけですよ。そういう部分でのズレはありそうですよね。

山田:やっぱり思うのはね、シカゴ行って聴くスライ・ストーンはいいなって。ニューオリンズで聴くドクター・ジョンはいいなとか。こういう景色の中で、この空気を吸って、これを食って、それでこの音楽が生まれたんだっていうのがね、いいなって思う。
だからそういう意味でも、やっぱり食い物が違うっていうのは感じるよね(笑)

草野:なるほど。でも僕は人に対して、そのこだわりに関係なく
許容しちゃいますね。
たしかに「イギリス人が言う見慣れた”空気みたいなビートルズ”」と
「イギリスから遠く離れている”日本人が憧れるビートルズ”」とは違う。
けれども、どっちも本当じゃないですか?
そういう意味では僕は全然それでいいと思うんですよね。

山田:そうそう。

草野:どこかの飲み屋で、うるさいビートルズ論を語ってくるオヤジさんでも僕にとってはいいわけですよ。その人の生活のハリになっているんだったら、それも本当だし、それはどちらも別に悪くはないと思います。

山田:うん。歌の歌詞なんかでも、英語の歌詞だったら意味がわかって聴く
と面白いじゃない?わからないものも、努力してわかると面白い。

草野:そうですね。

対談第七回に続きます