the other side 5

The other side of urban city life
リリース記念対談
HAPPYSAD ×JEFFREY YAMADA
第五回「便利なもの、ポップなもの、シンプルなもの」

< アルバム「The other side of urban city life」全曲試聴 >

楽曲試聴はコチラ


山田:昔から「パンク」だ「ロック」だとかっていう言葉を
一般的に使うけども、あれって何なんだろうね。

草野:わかりやすい言葉を使うことによって、人に伝わりやすいことってあるんじゃないですか。「パンク」とか「ロック」みたいな言葉って。

山田:うん。HAPPYSADはパンクは好きなんですか?

草野:ニューヨークやイギリスのパンクを聴いてましたね。

山田:パンクってさ、昔のものを今聴いてみると本当ゆっくりしているよなあ。

草野:高校生くらいの時に初めて聴いた時はすごい速いイメージでしたよね。

山田:そう、こんな速いものがあったんだって感じ(笑)

草野:セックス・ピストルズの「アナーキー・イン・ザ・UK」なんて
今聴くとすごくポップですよね(笑)ビートルズじゃないですけど、曲聴くと本当に
伝統的なイギリスのロックという感じ。昔聴いた時は、すごくワルなイメージがあったのに。

山田:うんうん。本当だよな。

草野:そう考えると、「慣れ」って恐ろしいですね。

山田:でもあの時はビックリしたんだよなあ。

草野:僕等の世代は高校生の時に70年代のパンク・リバイバルがあったので聴いてました。山田さんはリアルタイム世代ですか?

山田:そう、リアルタイム。高校生、大学生の頃だねえ。そういう意味ではさ、自分が世代的に一番シンパシーを感じるミュージシャンって誰?

草野:ニルヴァーナでしょうね。僕は高校生の時カート・コバーンがアイドルでしたから。あとはジェフ・バックリー、エリオット・スミスの三人かなあ。
好きでしたね。

山田:へえ。

草野:あと、あの三人が演奏していたカバー曲なり、影響を受けていた音楽なんかをどんどん掘り下げていくと、やっぱり昔の良質の音楽だとかにつながる部分がありますよね。すごくいいお手本だったと思っています。

山田:そういう役割を果たすミュージシャンているじゃん。
自分も売れているんだけど、沢山のカバー曲も演奏しているというさ。例えば、ノラ・ジョーンズなんかそうだよね。全然世代の違うグラム・パーソンズのカバーをやったり、
ローウェル・ジョージの曲を演奏したと思えば、エラ・フィッツジェラルドをやってみたり。

草野:かと思えば、最先端のヒップホップのアーティストとコラボしたり。
世代は違いますが、ポール・ウェラーなんかも
先人へのリスペクトと同時代の若手ミュージシャンへの尊重を同時に持っていますよね。

山田:ああいうのってやっぱり、アーティストとして度量が広いというかさ。
日本ではあんまり聞かないけどアメリカに多いよね。ビートルズなんかもそうじゃない。
アメリカのアイズリー・ブラザーズとかさ、昔のR&Bをカバーして演奏してたわけだから。

草野:ええ。

山田:だからあれだな、音楽が好きなんだなあ。
これをやってみたい、っていう純粋な気持ちなんだろうね。

草野:むこうのミュージシャンのものを聴いていると、
先人へのリスペクトがものすごくあるのを感じますよね。

山田:うんうん。そうね。

草野:若い人だけじゃなくて、年配の人も「先人へのリスペクトを持つミュージシャン」の音を聴くでしょうし。ああいう循環は理想ですよね。CDレンタルショップに行って、売り上げ一位から十位までのCDを借りてきて、「これが今の音楽だ」っていう聴きかたをしないというか。

山田:誰それが演奏したことによって、無名の人が表に出てくる場合があるよね。例えばノラ・ジョーンズがジェシー・ハリスの曲を演奏したとかさ。
ああいうストーリーっていっぱいあるじゃん。ああいうのいいよね。

草野:シンガーソングライターとして無名だけども、
有名な人が曲を取り上げて知られることになったという。

山田:これは誰に歌ってもらいたいとかあります?

草野:いや、僕が歌いますかねえ。

山田:そうすると、なかなか印税一億円の生活は来ないねえ(笑)
「Sweet relax」をパフュームに歌ってもらうとかさ。

草野:そうですか。是非やって欲しいですね(笑)

山田:そういえば最近はまたyou tubeを聴いているんだけど。you tubeのいい所と悪い所があってさ。あれってすごい自由なんだけど、自分の好きなものしか聴かないじゃん。自由が不自由になってる例じゃない?

草野:なるほど。

山田:例えばさ、iPodで何千曲も持って歩けるってこと、これは一見自由だけど、実は好きな曲しか聴かないじゃん。それは僕がそうなだけなのかも知れないけど(笑)

草野:(笑)
ただ例えば、Amazon上で、もしくはTVで、CMで、ゲームで、お店で、
気になった曲を発見した時に音をチェックしやすいという利点がありますよね。
僕は中古CD屋に行って、お店で試聴ができない場合に、iPhoneでyoutubeを開いて音を試聴するんですよね。

山田:なるほど。

草野:Amazonて、一度見た作品と類似した作品を画面表示してくれて、数珠つなぎしてくれたりするじゃないですか。「コレを買ってる人はこの作品も買ってますよ」という。そこでチェックしたら、youtubeすぐ飛べば実際に音を聴くことができる。最近はそういう音楽の探りかたも増えましたねえ。

山田:youtubeの音質もよくなったしねえ。

草野:いい具合に活用していけばいいんじゃないですかね。
まあ、「好きなものだけを聴く」でも別にいいわけじゃないですか(笑)

山田:でも同じものばかり聴いてるってのも、時間に限りはあるわけで・・。
それってラーメン屋行ったら、いつも同じラーメンばかり食ってるみたいな(笑)まあ、「人の勝手だから放っといて」っていう部分だけど。自由になったがゆえに同じ種類のものしか聴かないというのはあるね。

草野:自分の場合は「聴いたことのない音楽」を自然に探しにいってますね。
今もそうですよ。

山田:最近は何聴いてるの?

草野:絶対に今までだったら買わないであろうものですよ。

山田:例えば?(笑)

草野:例えば、2004年頃から現在までの英米でトップチャートに入るような
女性ヴォーカルものですね。

山田:ああ!一番苦手なとこだね(笑)

草野:僕も全然聴かないとこなんですけど。最近掘り出してますね。

山田:ああ、どうですか?(笑)

草野:面白いですね。やっぱりサウンドの組み立て方だとか。曲がポップだし、すごい完成されている感じありますよね。有名なところだと、まさにレディ・ガガとか聞いてますよ。普段ならば絶対聴かないであろうという。

山田:へええ。

草野:レディ・ガガのサウンドは80年代的なシンセサイザー音を多用していますが、じっくり聴いていると、エルトン・ジョンを経由したビートルズみたいな曲があったり。クイーンやマドンナからの流れも感じさせる楽曲もあって。アレンジをはがして曲の骨格を聴くと、結構ロック寄りなものもあったりして。ポップミュージックのスタンダードな要素を散りばめているように聴こえました。

山田:ふうん。

草野:あの人って、もともとは楽曲提供をするソングライターとして仕事してたんですよね。トップチャートをとるようなアーティストに曲を書いていたという。アーティスト活動はその後みたいですね。あと、見た目のファッションはどう見てもグラムロックをやってた時期のデビッド・ボウイみたいですよね。

山田:なるほど、セルフ・プロデュースが上手いわけですね。

草野:ビジュアルも含めて見せ方が特徴ありますね。
昔のデビット・ボウイなんて、アルバム一枚一枚ごとに
キャラクター設定から衣装から奇抜に派手に変えているじゃないですか。それこそ過去のイメージをどんどん打ち消してゆこうとするような面がある。

山田:あとマドンナの曲の盗作騒ぎかなんかがあったよね。

草野:でもあの辺りの人達って仕方ないと思うんですよ。マドンナだって何かに似ている曲あるわけですし。今の世代のマドンナというふうに見えますね。

山田:ここ十年くらいのR&B系の女性といえば、やっぱりエイミー・ワインハウスでしょう。よくあんな人、世の中にいたよねえ。あの人はブルースでいう所のロバート・ジョンソンだよ。

草野:二十代なのにすごい貫禄ですよね。歌もものすごいし。
60年代のソウルディーバみたいですもんね。

山田:僕等の世代って、音楽とそういう生き方のすごさも含めて見ちゃうんだけども。これって、全然関係ないと思う人には関係ないのかも知れないね。

草野:どうでしょうね。生き方が音楽を生んでいる一方で、僕は音楽と生き方は切り離して聴くようにしてますけどね。セールスのための宣伝文句が錯覚を生むこともあると思うので。

山田:僕はどっちかというとそういうのが好きなんで。

草野:ええ。

山田:常にその時代には越えることの出来ないとんでもない人が出てきて、
評価はされるわ、生き方は滅茶苦茶だわっていう人がいて。アップルのスティーヴ・ジョブズみたいなさ。

草野:スティーヴ・ジョブズ(笑)
まあ、エイミーワインハウスは音楽好きな人は大体聴くじゃないですか。
でも最近聴いているのは、そういうのではなくて本当ポップチャートもの。
避けていた部分のポップミュージックのサウンドも聴いて、何か吸収できることがあればしようと。

山田:そうね。時代ごとのポップミュージック。
HAPPYSADにとって最高のポップミュージックは何ですか?

草野:それはやっぱりアルバム「Never mind」に入っている一曲目じゃないですか。(ニルヴァーナの楽曲「Smells like teen spirits」)3分間ポップというか。

山田:あれをポップミュージックと言うんだ?

草野:あれはポップだと思いますね。アイドルが歌うポップミュージックと同じ要素を持ってますね。サウンドはもちろん違いますけど、いい意味でシンプルなんですよね。

山田:何故それをポップと言うの?

草野:単純に音が複雑なことはやっていない。それに耳に残るメロディがある。
アレンジも複雑ではなくて、反復しているところですかね。あのニルヴァーナの「Smells like teen spirits」なんて、
コードを4つか5つしか使ってないわけですよね。それを反復させている。メロディも耳から離れない。

山田:ふうん。

草野:あと、三分間ポップでいい曲ってなんかマジックがそこに入ってるじゃないですか。 何回も聴いてるはずなのに、いつも「うおおっ」て胸ぐらつかまれる感じがあるっていうか。

山田:なるほど。

草野:一時、それが嫌になったのですけど。
今まっさらな目で見るとそういう良さを感じますね。

山田:そう思ったらさ、初期のモータウンの音楽とかすごいよね。イントロが始まった瞬間からさ、飛び掛ってくるもんね。取っ組み合いの喧嘩が始まるみたいな。最後まで逃げられない。

草野:(笑)
あれもコードだとか、アレンジだとかを見たら一見単純じゃないですか、
でもよくよく聴くと、あの演奏の一体感だとか、音が前にぐわっと押し寄せて
来る感じがある。そして何よりメロディが素晴らしい。作曲者でも、演奏者でも、録音のエンジニアさんでも、最高の職人さん達がそこにいたんでしょうね。
三分間ずっと、一回も相手の胸ぐらから腕を放さないような濃い部分だけで作っているというか、
60年代当時のシングルヒットの時代って薄い所がないですよね。そういう曲を作れたらいいだろうなあ、と思います。

山田:シングルの三分間というリングの中でいかに戦うか、というところだよね。

草野:それも制約があるがゆえに面白いものが出来るというか。「アレンジが高度・複雑だからいい」という世界ではないからなおさら聴いていて面白いですね。

山田:youtubeで昔のPVとか見るじゃん?
「うわっ」って思うんだけど、音を聴くとイケてるじゃん。YMOの昔のとか見てると「えっ」って思うけど、音聴くとスゲエってなる。それって音楽のすごい所だと僕思うよ。

草野:現代のCMだって昔の曲バンバン使ってるわけじゃないですか。
それで今の絵とマッチしてるっていうのは、
良質の音楽はずっと先に行ってたということなんでしょうね。

山田:全然違うところに連れて行ってくれるんだね。