ソウルボトム対談第四回

第四回「生きていることと音楽が直結してる」

山田:HAPPY SADの音楽ってリスペクトっていうのがキーワードになると思うんだけど、それが足枷になる事ってない?

草野:今はあんまりないですね。何かに似せようという考えがないですね。前はありましたけど。

山田:いや何かさ、表現しようというものがわかっているが故に、その山が余りにも高すぎることがわかってるから、山に登る前に足がすくんじゃったりしない?

草野:(笑)まあでも、誰かに近付きたいというよりは「自分になりたい」という感じですね。

山田:そうだね。

草野:結局僕等、自分になるために音楽やっているわけなので。

山田:いい大人だもんなあ(笑)

草野:そんなこと言わないで下さいよ(笑)

山田:いやいや、良いよ良いよ(笑)

草野:さっきのサーファーの人がパイプラインの中に光を見た話ですが。

山田:理屈抜きで、これだなって思う時あるんでしょう。

草野:皆そういうものを見る瞬間を・・・・

山田:そういうのってさ、アーティストって「あの時」っていう風に起きるのかなあ?

草野:意識に鮮明に写るんでしょうかね。

山田:例えば、ニール・ヤングにしてもさ、60年代後半から70年代初期辺りの一時にさ、クラシックと言える曲をぶわーっと書く時期があるじゃない?

草野:ニール・ヤングの黄金期ですね。

山田:当時のライブを聴いているとさ。彼がやっぱり言うわけ「新しい曲をやる」って。「ハート・オブ・ゴールド」みたいな曲が書きかけなんだけどって言いながらも、どんどん歌っちゃうっていうさ。そう言う所ってさ、僕はHAPPY SADの「Feel like happy sad」を聴いた時にさ、感じたのと近いというか。

草野:ああもう、最盛期は終わったみたいなですか?(笑)
あれでも全然最盛期じゃないですけどね。

山田:あれ時間的な幅があったの?

草野:あれは、その前に作った奴をまとめたものなので。

山田:どれくらいの時間?

草野:1年~1年半くらいですかね。

山田:1年~1年半にあの曲達って、濃いいよね。
その時期のものを今再録したわけだ。出し惜しみしないでよ(笑)

草野:今も結構曲はあるんですけどね、ただ録音をしていないだけという。

山田:そっか。いいじゃんもう、ギター一本で。

草野:おととしくらいに作ったアンビエントのアルバムもそうですけど、他の事もやりたくなるんですよ。カバーアルバムを作ろうとしてた時も、他のものに興味がいったりしてたので。今は再録音をやってますが、先々は極力やりたくないですね。

山田:いいじゃない。トッド・ラングレンだって自分の曲をボサノヴァでセルフカバーしたりしてるじゃない(笑)

草野:セルフカバーはしたくないんですよ。

山田:でも1年半な!1年半はさ、でもそれは十分短い時期の濃い作品だと思うよ。

草野:悪くないですけど、全然それ以上のものは出てきますよ。
でも、あの時は色んなスタイルを学びながらやりたかったんじゃないですか。今はそういうものをやりたいと思わないんですね。自分の方に寄せたいというか。そろそろ新しい歌ものも作りたいですね。

山田:この時代というか、この時期はさ、フェイスブックとかあるわけだけど。昔はインディーズってさ、スタジオ録音でうん十万円とかキャッシュでかかって、配給たってレコード屋回って置いてもらったり、売れたら売れたで集金したり、何万払って雑誌の広告を打ったりとかしてたけど、今はどうなのかね。
今はソーシャルメディアとかいかに上手くやっていくかとか大事な事じゃん。

草野:皆やってますもんね。

山田:でもさ、その辺りよく考えているんじゃない?

草野:僕ですか?僕は全然考えてないですよ(笑)

一同:(笑)

草野:スタジオ代いくらとか、広告のっけてとか、やってる人はやってると思いますし、自分のレーベル持ってるという人がメジャーでやってますというのも聞きますけどね。どうでしょうか。

山田:どうなのかね。

草野:まあ、あんまりガツガツはしてない事は確かですね。そう考えると、まあいいんでしょうかね(笑)

山田:ネットで音楽配信とか言ったって、ここ十数年くらいの話でしょう?

草野:十年も経ってないと思いますよ。

山田:MP3プレイヤーとかってせいぜい十年くらいでしょう?

草野:十年くらいだと思いますよ。

山田:今ほらCDとかレコードとか売れてないっていうのはさ。我々って言っていいのかわからないけど。パッケージじゃなくてダウンロード販売が多いよね。

草野:今ダウンロードだったりしますもんね。

山田:よくほら昔、adobeのソフトとか買ったらさ、こんなでっかい箱に入ってて「なんだこれ?」と思って空けたら、中にディスクが一枚だけ入ってたみたいな話あるじゃない?

草野:(笑)

山田:値段がさ、当時だってフォトショップだって十万くらいするわけだからさ。十万するわけだから、箱もこんなじゃなきゃっていうね(笑)

草野:今もそうですよ、パッケージ商品て。音楽の機材ソフトとかでも、箱開けたらもうCDすら入ってないという。ダウンロードのコード番号かなんかが書いてあって、「ホームページからダウンロードして下さい」とか書いてあって。

一同:(笑)

草野:だったらパッケージの必要ないんじゃないか、っていう(笑)

山田:変だよなあ(笑)その頃によく友達と飲んで話してたけど、そのうち絶対にアーティストが自分で曲を作って、ダイレクトに発信してっていう時代が来るから。そうなったら世の中変わるよなっていう話を下北とかでガンガンやってたんだよね。

草野:本当に変わってしまいましたね。

山田:ああ、本当にそうなったけど、どうなんだろう。

草野:どうなんでしょう。音楽をやる立場からすれば健全なのでは、と思いますけどね。でもまあ、変わってないっちゃあ、変わってないのかも知れませんが。だって、それを人に聴いてもらうには自分の足とか使ったりするわけですから。

山田:ピーター(・バラカン)が最近なんかに書いてたのがさ、「音楽産業は今衰退しつつあってCDが売れてないとか憂う声があるけれど、もともと音楽なんて産業でも何でもないわけで」っていうのがあったけどさ。

草野:本当そうですよね。

山田:だから、産業に仕立て上げられて、産業なんて言ってる事自体がたかだかここ100年も経ってないくらいの中での話なわけで。「音楽産業の衰退がクリエイティビティの衰退だなんてのとは全然違うんじゃないか」、っていう話だったよね。

草野:そうですね。生活の一部として音楽をやっている人でも、事務所とかレーベルに属さなくても自分の音楽を配信出来るっていう環境はやっぱり健全だな、っていう気持ちは僕はありますね。

山田:そうだね。

草野:まあでも、それにしたってAppleのiTunesとか中間業者が入ってる事は入ってるし、変わってないんですが。直で自分のサイトから曲を売っている人もいますけど。面白いですけどね。ただ、配信数が多すぎて誰が何やってんのかわからない所はありますけど。

山田:そうそう。音だっていくらだって表現力あるわけでしょ。昔はそれこそデジタルディレイとかイコライザーとか「スゲエっ」ていう時代があったけどさ、今ってそんなの何でもないソフトをちょっといじれば済む話なわけじゃない?

草野:ええ。

山田:でも、それでもって表現する内容が良くなったかって言うと全然違う。

草野:そうですね。

山田:仕事でもそうでさ、今パソコンあってメール出来たから、20年前の人達より質のいい仕事が出来たかっていうと、そんなことない。

草野:それはないでしょうね。
僕の場合は自分の中のハードルというか、こういう風にしたいというビジョンがあって、そこに近づきたい、こういうものを作りたいという形が見えているので、そこに近づきたいですね。生きている間にそれが100点満点なんて事は有り得ないんでしょうけど、それになるべく近づけられるように努力はするというか。でも、別にそれをなしたからと言ってお金になるかと言えばなるわけではないし。そういう意味では「売れるとか売れないとか」って所を根本の本質に置いてないというか。

山田:そう。本質ではないからね。

草野:音楽とビジネス書を絡めたノウハウ本みたいなものが今多いですが、あそこで語られている内容を音楽の根本だとは思っていないですね。

山田:(これだけ配信や技術がすすんでくると)これでさぞや、色んな優れたアーティストが出てきてすごいだろうなあと思っていたら結局、スライ&ザ・ファミリーストーンを聴いてたりとかさ(笑)

草野  :ビートルズとかYMO聴いてたりね(笑)

山田 :HAPPY SADは頑張って色んな形をこれから考えると思うんだけど、「プロかプロじゃないか」って言う話を僕はするんだけど、「プロ」ってどう思う?

草野 :その基準点をどこに置くかっていう話は人によって違うと思うので。

山田 :そうそう。一般的に「プロ」って言うと、それで生計を立てている人、お金をもらっている人だよね。でも、お金もらってたって「ウーン?」ていう人もいるわけじゃない。そういった意味では草野君はどういうのがプロだと思う?

草野 :さあ?僕はプロではないですから(笑)
世の中からプロという言葉は無くなったらいいなと思いますけどね。
あの線引きっていうのは、いわゆるプロという立場にいると思っている人が自分の勲章というか、他と差別化をはかりたいから使っている言葉であって。
さっき山田さんが言っていた、アメリカでレコードが誕生する前に音楽
をやっていた人達って多分(音楽的に)上手い人って沢山いたと思うんですよね。

山田 :今でもいるよー。とんでもないのがいる。

草野 :そういう人達が、仮に音楽で食えてないからプロじゃないと言うと、そんなことはないわけで。

山田 :その通り。そうだなあ。

草野 :それは果たして、仕事に対して打ち返せる人間がプロという言葉を使ってプロなのか、それとも音楽の本質に対して努力している人間をプロというのか、それともそんなプロというのは一種の価値観であって想像の世界というか、妄想に近いものなのか。あるいは、能の世界の様に一般に開かれていない環境で、伝統芸能の様に切磋琢磨している人がプロなのか。それは人によって異なると思います。でも僕はプロっていうのは無い方がいいなって思います。

山田 :なるほどね。

草野 :「この人がプロだ」っていう人だけの音楽を聴いてたいかというと、そんなことはないし。僕等は素人の目というか、いわゆる素人から誕生しているし、今も素人な部分があるわけですから。誰それがプロだから偉い、というのは基本的に滑稽な感じがします。また、ワールドワイドで見ると、お百姓さん達の労働中に歌う歌であったり、地域部族の歌や音楽、またはその国全体がいっさい音楽を商用としないで大切に扱っている地域等もあります。
そういう音楽がフィールドレコーディングで残っていますが、それらを
聴く時、その人達がプロであるかどうかなんて、どうでもいい。生きている事と音楽がもっと直結しているのを感じます。

山田 :今自分が思うのも、そういうことなんだよね。自分がこうだなと思っていたことを(現地に行くと)彼らもやっているから、それが多分自分が一番楽しいのかもわかんないよね。「これだよ、これ」っていう感じ。

草野 :ああー。

山田 :たまにどこかライブを見に行って、色んなバンド見るじゃん。
どんな音楽やっているのかっていうのもだけど、彼等がどんな
スタンスでやっているのかっていうのを見るのが面白い。

草野 :不思議なことに音楽に出ますよね。その人がどういう人なのかも出る。

山田 :出る。音楽に対する接し方みたいな所が見え隠れするのがすごく面白いよね。

草野 :隠れないですよね。

山田 :(HAPPY SADと)以前対バンをしたブルースのバンドがあったじゃない。上手さ下手さというのは関係なく、彼等の音楽に対する接し方というのが、それがいいとか悪いとかではなくて見ていて面白かった。

草野 :本当に音楽に対してストレートでしたもんね。

山田 :でも、あそこのバンドの人が言ってたね。HAPPY SADすごいねって。こんだけガチでやってんだ、って。

草野 :あ、本当ですか?嬉しいですね。そんな話、直接は一言もされてないですけど。

山田 :いや、言ってたよ。本気でガチでやってるって。

草野 :音楽は面白いですね。

山田 :最近思うけど、音楽じゃなくても良かったのかもだよね。

草野 :そうですね。でも、音楽を選んだ所にドラマがあるんですよね、それぞれ。

山田 : 本当、焼き物とか俳句とかさ。むしろ今からやるんだったら、そっちの方がお金かからなくていいかも(笑)

一同 :(笑)

対談・最終回へ続く