ソウルボトム対談第二回

第二回「プロダクションにもバンドにも、
こだわりは持っていない」

山田:テクノからアンビエントってさ、ランドスケイプっていうか、サウンドスケイプっていうかさ。

草野:僕が以前作った、川の音を使った音楽じゃないですけど・・

山田:そうそう、そうだ、インストゥルメンタルやってるじゃん。あとは、あれだ・・・

草野:「Sleeping colour」というHAPPY SADの昔のアルバムですね。インストのものもまた作りたいですね。

山田:言っていいのかわからないけど、基本的にメロディを先につくってるわけでしょ?

草野:メロディ先ですね。

山田:そうすると、歌詞を作るのって面倒臭くない?

草野:いや、曲をつくるのと、それとは別に言葉だけを書き溜めたノートブックというのがありまして。それをずっとやっていて、それは必ずしも歌詞に使われるかどうかはわからないような言葉の羅列なんですが。

山田:ああ、フレーズ集ね。

草野:というか、散文とか詩みたいなイメージで作っているものがあって、
それをうまくはめていくという作り方なんですね。

山田:そういう作り方なんだ。

草野:そうですね。言葉も言葉で常に書いている時間が必要だと僕は思っていて。言葉も音と同じで心象風景ですからね。

山田:その作り方ってモジュールっていうかさ。アプリケー ションの世界だよね。

草野:パッチワークですかね。

山田:パッチの世界。

草野:そうかも知れないです。HAPPY SADはパッチワークなのかも知れない(笑)

山田:それはそれでいいじゃない(笑)

草野:でも、心象風景のパッチワークです。

山田:よくわからないけど(笑)

一同:(笑)

草野:文章とか言葉とか詩を書いている時って、心象風景を見ながら書いているわけですよね。それにハサミを入れているわけですから。

山田:そうだね。

草野:確かに、アンビエントミュージックというのは心象風景な感じですよね。まあ、具体的な音があっても、具体音が無くても心象風景は心象風景なんですけど、より一層感じるものはありますよね。

山田:面白いよね。「ソウルボトム」を今回再録音したのは、去年リリースした「Lily」もそうだけど、ライブで日頃やっている曲に今のテイストを加えてやってるわけだよね。

草野:そうですね。あとは当時なかった録音機材の拡張をここ一年くらいで結構行ったんですね。その実験もしてみたいというか。

山田:そうね。確かに「ソウルボトム」なんか聴いてるとそう思う。
あれってオリジナルバージョンは何年に出来たんだっけ?2007年とか8年?

草野:オリジナルバージョンの録音は2007年くらいですね。

山田:五年経ったら変わるよなあ。制作環境も変わるし。

草野:あの時は何とか作ったっていう感じでしたけど。今回の「ソウルボトム」も去年の「Lily」もそうですけど、自分が一人で大半の楽器を演奏して、ベースだけはライブで弾いてもらっている宮崎君に入ってもらって、という編成ですけど、アルバムでは結城君にキーボードを弾いてもらったりとか他のメンツも加わってもらおうかと思ってます。

山田:でもさ、それはなんていうの、プロダクションのこだわりなのか、それともバンドってものに対するこだわりなの?

草野:うーん、どっちもこだわりないかも知れないですね。プロダクションもバンドもどっちもこだわりはなくて。

山田:そう?

草野:ただなんか根本的に、人と一緒にやった方がこっちは面白いんじゃないかとか、逆にこっちは自分一人でつくった方が面白いんじゃないかとか、そういう感じですねえ。

山田:DTMでがーっといく人って、それこそ自分の得意技の連続でモジュールをどう組み合わせていくか、っていうイメージがあるんだけど、そこにあえてバンドにこだわっているってのが面白いなと思って。

草野:どうなんでしょうかね?室内でなんかこうDTMで音楽作ってるのと、バンドやるのって違いますもんね。

山田:でも例えば、この前のエレクトラグライドじゃないけど、一人とか二人であそこまで出来るわけじゃない?であれば、DTMでも出来るんじゃない。

草野:ああ、エレクトラグライドは出来てますね。ただ、あれっていうのはあらかじめ仕込んだネタを出し入れしてる部分があるわけですよ。

山田:表現力もあるじゃない。

草野:もちろん、即興性も表現もあると思いますけどね。ようは両方やりたいんですよ。バンドもインストも。

山田:なるほど、なるほど。

(ここで店員さんがケーキを持ってくる)

店員さん:アップル風レアチーズでございまーす。
こちらカフェオレになります。

一同:おおっ、すごい。これはすごい(笑)

草野:お、カフェラテのハートがすごい・・・

山田:こんなことになっちゃって・・・(笑)

草野:これは男子会ですね。女子会ではなく、男子会。

山田:あなた方は一体何をやっているんだと(笑)

(この時、草野の携帯電話にメール着信あり)

草野:(キーボードの)結城君からメールが今来ましたねー。
彼は今仕事に行ってますね。

山田:仕事かあ・・

草野:そうですね。田舎に帰って正月を迎えるらしいです。
「お土産買って来ますね」だって。いい奴ですよ(笑)

山田:あははっ、いい奴いい奴(笑)

草野:ウチのバンドは本当皆いい奴ですよ。このメンバーが揃うっていうのはすごいですね。あと人間的に皆面白いんで、一緒にやってて。一緒に録音したら面白いかなって。

山田:そうかあ。

草野:なので、こだわりないです。
しかし、「こだわりない」って字面にすると印象良くないですね(笑)

山田:いやいや(笑)

草野:いやー、ケーキ美味いっすね。かなりの回数を共に飲んでますが、山田さんとケーキ食うって初めてですよ(笑)

山田:面白いのはさ、バンドにこだわってるってのもあるんだけど、いつもライブで必ずアコースティックギターを弾いてるじゃない?あれが可笑しくってさ(笑)

草野:あれ、そろそろ止めよっかなと思うんですけど(笑)

山田:(笑)以前、スタジオにテレキャスターを持ってきてたけど、あれは別に自然に弾いてるなと思ったんだけど。アコギをあの重いハードケースに入れて、よいしょよいしょと持ってくる所が面白くって(笑)

草野:ああ(笑)あのハードケース重いんですけど、ギターをあまり傷つけたくないんですよね。あのアコギ、僕すごい好きなんですね。大好きなギターなんで。

山田:リスペクトですね。でも、最近アコギのハードケースで持って来る人ないからねえ。クラシックの人だったらあれだけどさ、ハードケースは持つ気にならないもん。

草野:そうですねえ。でも、スタジオに練習しに行く時とかは軽いソフトケースなんですよ。ただ、ライブ先って、置いたりすると目を離してる隙に傷ものになったりする可能性あるんで。あのギターは本当、棺桶に入れて欲しいくらいのギターなんで。大好きなんですね。

山田:あれも、アコギにピックアップを付けて演奏しているけど、普通はあれエレキ使うじゃない。不思議だよなあ、ははは(笑)

草野:本当は曲によってエレキとアコギを分けようっていうのがあって、
ただ僕エレキギターを持ってくるのが面倒臭いんで、アコギになっているという(笑)

山田:そうか、大変(笑)

草野:今後は両方持って行くかもですね。あと、リードギターに岩田君が加入したので、二人エレキでもいいし、エレキとアコギで分けてもいいし、やり方は広がりますね。結城君はもう一人キーボードいたら面白いんじゃないかって言ってましたけど(笑)

山田:結城君って、キーボードを弾く時にあんまり音の幅を広げないで、片手で弾いたりもするし、範囲を狭いとこ弾いたりするよね(笑)

草野:そうです。あれって結構僕が彼の好きな所で。

山田:ああ、(両腕を大きく広げて弾くジェスチャーをして)こんなだったら嫌だもんね。

草野:いわゆる60年代辺りの昔のバンドって、ブリティッシュロックとかでも、スモール・フェイシズとかキンクス、ローリング・ストーンズ、あとはモータウン、スタックス辺りのソウルなんかでもそうですけど、キーボーディストが入っててあんまりオクターヴを広げまくって弾く人っていないじゃないですか。

山田:ああ。片手で飲みながら、片手で弾いてるみたいな。

草野:去年のポールウェラーのライブなんか、メンバー皆ワイン飲みながら、タバコ吸いつつ演奏してましたよね。ああいう(狭く弾く)クラシックロックな弾き方っていうのはカッコイイですね。

山田:なるほどね。うん。

草野:でも弾こうと思えば全然弾けるんですよ、彼は。それこそジョー・サンプルみたいなメロウソウルやAORみたいなものを。

山田:彼は歌も歌うしね。

草野:そうです。もともと彼はジャズバンドのヴォーカルやってましたからね。

山田:彼の歌も独特の世界だよね。

草野:彼の歌や曲とかも、配信とか発表する時があるなら全然手伝うよと伝えてあります。むしろやって欲しいくらい。

山田:うん、そうねえ。

草野:あと本当は皆曲を書けるんですよ、ウチのバンドは。(ドラムの)風間さん以外。そういう部分を膨らましていってもおもしろいかなと思います。今の所、HAPPYSADという名前では自分だけが曲を書いてますが。

山田:しばらくはライブでおなじみの曲をリメイクする、というシリーズは今後も続くんですか?

草野:続くと思いますね。ただそんなにやっても僕自身飽きてくるので。
この次はアルバム一枚作って、過去の曲の再録音というのは終わりにしたいなと思ってます。また新しい歌ものとインスト曲が待ってますから。

山田:楽しみですねえ。早くあの、伝説の幻となりつつあるカバーアルバムを出して下さいよ。

草野:あはは(笑)カバーアルバムどうなんでしょうね。まだまだ先になりそうな気がしますけども。カバーアルバムを作るなら国内だけではなくて海外でも配信したいんですよ。権利関係があって、いわゆる海外のミュージシャンのカバーを向こうでするなら、海外で権利を持っている所に問い合わせをして許可をもらわなきゃならないので。

山田:なるほど。

草野:もうちょっとですね。まだその前に実験したいこともあるので。

対談・第三回へ続く