ソウルボトム対談最終回

最終回「あの瞬間と今」

山田:歌詞についてはどう?

草野:(最近書く言葉は)散文的になってきてますね。散文が増えるといけ
ないと思ってるんですけどね。

山田:そう?いいんじゃないかなあ。

草野:散文的なものもあっていいんですけど、もっとストーリー・テリング(物語をつむぐ)が出来たらいいなと思ってます。レイ・ディヴィスやルー・リードの様な。物語をつむぐというか、色んな出来事を客観的に俯瞰(ふかん)で見ている様子、まるで登場人物が隣の家に本当に住んでいて息をしているみたいな、ああいう歌詞を書ける人はすごいと思います。

山田:確かにレイ・ディヴィスとか、ソングライティングのスタイルが違うよね。

草野:もし、音楽をやっていなかったら、新聞記者とか作家とかになってたんじゃないかと思われる人達ですね。

山田:散文、そうか・・・

草野:ジョン・レノンの昔のインタビューとか読んでいると、年と共に散文的になるという話をしてますよね。まあでも、年をとっても物語をつむぐ人もいるので、人それぞれなんでしょうね。

山田:なるほど。あと、話変わるんだけど、下北でいつも僕等会うけどさ、他はどの街が好きなの?

草野:僕ですか?

山田:御茶ノ水?

草野:やっぱり学生時代を過ごした神保町・九段下ですかね。あの時は、古喫茶でバイトをしたりしてました。

山田:さぼうる?(※「さぼうる」という有名な古喫茶店が神保町にある)

草野:白十字というお店ですね。

山田:白十字ってどこにあるの?今もあるの?

草野:今もありますよ。神保町と九段下の中間に、白山通りという所がありまして、靖国通りと垂直にぶつかる通りで、水道橋の方向に向かって行くとあります。

山田:レコード屋さんの奥?レコード屋には昨日行ったんだけど(笑)

草野:行ったんすか?(笑)レコード屋さん多いですよね。

山田:年末何となく行きたくなるんだよね。

草野:ああー、セールもあるし。あの辺りは昭和から時間が止まっている感じがしていいですよね。夏は古本祭りもあるし(笑)

山田:あるね(笑)神保町と下北沢と。あとは?

草野:思い入れのある街ですか?

山田:あとは、登戸とか?

草野:登戸はそれほどないですね。多摩川にはとてもありますが。
思い入れがあるというと、好きか嫌いかは別として、不思議なもので歌舞伎町ですかね。一時、職場があの辺にありましたから。まあ、好きな街というと、ちょっと違いますが。

山田:ふうん。新宿、池袋・・・・、渋谷とかそうだよな。

草野:あ、渋谷ですね。渋谷はもう毎週毎週行ってましたし、今も何故か行っているという。

山田:渋谷、何しに行くの?

草野:何しに行くんでしょうね?レコード屋と楽器屋を見て、あとはBOOK  OFF行っちゃいますね(笑)

山田:あ、BOOK OFF大きいもんね。DISK UNIONも近いし。

草野:BOOK OFF行って古本見たりとか。DISK UNIONとかRECOFAN行ったり。宇田川町の周辺ですかね。あとはファイアー通りの方で楽器や服を見たりとか。

山田:ファイヤー通りから原宿の一帯とか。

草野:あとは、表参道から渋谷までの道のりって思い入れがありますね。

山田:表参道のシェイキーズの脇から入る道とかね。

草野:以前、表参道へヴォーカルトレーニングに通っていたんですね。

山田:どの辺にあったの?

草野:表参道と外苑前の中間くらいの所にあって。裏原の奥を抜けても行ける所なんですが、そこに7年くらい行ってました。それは、学生の時にやっていたバンドのドラムの人がもともと行っていたヴォイストレーニングで、紹介してもらいました。

山田:そうね。確かに僕も表参道から渋谷に抜ける道が好きかな。
あの辺りに今でも行くと、「来たな」って感じになる。

草野:今でもあそこを通るたびに思い出すんですよね。ヴォイストレーニングに通っていた時のこと。何か不安を抱えたまま歩いていたなという。

山田:今も(笑)

草野:まあ人間常に何かしらありますけど(笑)あの時、頑張ってました。今も頑張ってますけど。

山田:今、でもファイアー通りの方も随分感じが変わったよね。

草野:長屋のお店も結構無くなって寂しくなりましたね。そういえば昔からある喫茶店ありますよね、あの辺。

山田:「モボ・モガ」。

草野:そうだ、「モボ・モガ」だ。いつも行こうと思って、行けないんですけど(笑)あそこ行ってました?

山田:僕、アイスコーヒー注文してた。出前で(笑)

草野:お店の中に入らずに(笑)

山田:届けてくれる(笑)

草野:(笑)

山田:レコード屋に勤めてた時に、いいお客さんが来ると、出前でアイスコーヒーを注文して、「どうぞ」って(笑)

草野:うまいなー(笑)

山田:でもあの時って別に僕、学生だったから・・・

草野:学生でもそんなに気が利いていたんですね。

山田:(レコード)売ったからって給料変わらないのよ。だけどでも、(相手に)やっぱり伝えたかったんだろうね。

草野:いいですね。それが山田さんの今のお仕事につながっているんだと思います。

山田:あの時にね、レコードの値段が書いてあるカードがあるじゃない?
廃盤を扱うお店だったから、そのカードにアーティストの名前とレコードのコンディションが書いてあって、その下にちっちゃい隙間があって、そこに「これは誰々のプロデュースで、A面にこんなトラックがあって」というのを書いたりして。

草野:店員さんの一言コメント!ですね。

山田:そう、でね、それまでってアレそんなにやってなかったと思うんだ。UNIONでもほとんどやってなかったんだけど。多分あれをやり始めたのって、ほんとに最初の頃って僕等だったのかも知れない(笑)

草野:あれ?(笑)

山田:もちろんその前から書いていた方もいたんだけど、そこをね、あの小さいコメント欄にどう書くかっていうのをね。

草野:その想いを某・大型CD店の店舗の方に伝えたいですね。

山田:どこそれ?

草野:店員さんの一言コメント!の欄あるじゃないですか?たまたまニック・ドレイクのCDが大型店で売っていて、そのアーティスト紹介コメント欄を見てたら、昔僕が学生の時にAMAZON上の評価欄に書いたコメントがそのままコピー・ペーストされてて、「なんだよ、これ?」みたいなのがありました(笑)

一同:(笑)

山田:そんなことあったんだ?(笑)そのレコードのカードに色んな事を書いたりしてから、もう30年、25年くらいになるのかな。その時はわからないけど、自分は自分なりに毎日渋谷に行っていて、多分その時が自分なりのすごい凝縮された時代だったから、やっぱりそこから逃れられないかもわかないよね。

草野:価値観であったりとか。基準を置く部分というか。

山田:お店にレコードを見にいくじゃない?まあ、昔から高いレコードは高いし、安いレコードは安いなあ、とかってそういう風に僕は見るんだけど、結局それって自分があそこで過ごした時間、今思えば2年とか3年とかなわけよ。
ファイアー通りで過ごした時間というのは。それから20年は経ってるけど、あそこで凝縮してあった体験というのが多分、自分の原体験となっていると思うから。そういう時期にさ今思うと、いい思いで聴けたからよかった。
草野君は十代の終わり頃はやっぱり、ニルヴァーナとか聴いてたの?

草野:いや、もうその頃はジェフ・バックリーとかエリオット・スミスでしたね。

山田:もうその頃からいいものを聴いてたんだなあ。エリオット・スミスいいよなあ。

草野:その時はオルタナティヴ・ロックの流れで聴いてましたけども。

山田:それはパーソナルな方で聴いてたの?シンガーソングライター好きだったの?

草野:好きなのはシンガーソングライターでした。やっぱりあの頃のUSやUKのインディー・ミュージック聴いてたり。あとはモッズバンドの先輩がいて、ローディーみたいな感じでついて行ってたりとかしていて、そうなると必然的に60’sから現代に至るブリティッシュ・ロックだったりとか、フォークロック、ソウルミュージックを掘り下げて聴いたり。同時期に下北沢の小箱のクラブで働いていて、ショップにブラジルやラテン音楽を探しに行ったりしてました。いつも色んな音楽を探索してました。あの時は特に毎日濃かったですね。文学や絵画も含めて、出会う人、目に映るもの全て色んなものが刺激的だった。

山田:そういう時間てさ、後になってわかるけどさ、やっぱり一生懸命やってよかったなって思うでしょ。なんかすごい、昔を懐かしむ話になってる(笑)

一同:(笑)

草野:もしかしたら、軸足みたいなものがその時に出来ていて、そこからもう直径何kmとか半径何kmの所で僕等は生きてるのかも知れないですね。

山田:音楽のジャンルやスタイル、方法論はいくらでも変えることが出来ると思うの。楽器変えればいいわけでさ、ギターなのか、わかんないけどバイオリンなのか、あるいは歌手なのかってあるけど、表現したい根っこってそこは変わらないよね。

草野:そうですね。

山田:エレクトラグライド行った時もさ、(音楽の)とてもいいと思っている所ってさ、当たり前だけどツボって同じじゃん。ぐっとくるところ(笑)

草野:ありますね(笑)

山田:ココ、ココって(笑)

草野:今第一線で活躍している人達を見れてよかったですよね。ビジュアルもすごかったですし。

山田:ビジュアルとの融合はどうですか?HAPPY SADは。

草野:やりたいと思ってますけど、そのために映像を操作する人が一人必要ですね。同年代くらいで、一緒にやって面白い奴がいたらやりたいですね。

山田:映像って大事だもんなあ。

草野:去年リリースの曲「Lily」の時もPVを簡易的に作りましたけど。今回の「ソウルボトム」にもあるので。

山田:映像の力って大きいね。全然聴こえ方が違うもんなあ。恐いけどね、ひっぱられちゃうから、イメージが。

草野:僕の場合、手のこんだ最先端の映像とかはいらなくて、心象風景に近づければいいので。

山田:じゃあ、ライトショウとかやろうか、影絵とかやって(笑)

草野:アナログな手法です、とか言って。ハサミで切った様な影絵で(笑)

山田:そういえばさ、以前一緒にイベントを見に行った時にさ、どこかのバンドのライブ中に書道をやる人がいたじゃない?

草野:ああー、書道の人いましたね!

山田:書く場所がさ、壁に書けばいいのに床に書いてるから、何書いてるか全然わからない、という(笑)

草野:(笑)でも、僕等的には一人一人の動きを見るじゃないですか。あの書道の人が一番ストイックで真面目な人なんだろうなと思いました。

山田:ずっとやってたよね。

草野:自分の世界にちゃんと入ってやってましたね。

山田:書き終わったやつをちゃんと見せてくれればよかったよね。

草野:別に完成品はどうでもよくて、作成中のプロセスが彼は良かったですね。ただ、僕等以外の人は誰も見ていなかったのかも知れませんが。

山田:アーティストは大変なんだよ。

一同:(笑)

山田:今日は楽しいですね。ソウルボトムも聴けたし。早いもので一年とか二年ってすぐですから。

草野:ええ。

山田:まとめに入ってるわけではないですけど。

草野:大体、ソウルボトム自体の話はあんまり出来てない、という。
まあ、今日はいいですね(笑)

一同:(笑)
—終わり—